丸洗いと洗い張りって、何が違うの?|染み抜き屋が教える着物お手入れの話

ボクは着物のお手入れのプロなんですが、お客さんとの会話の中で、業界用語というか専門用語というか、自分は当たり前に知っているけれど、一般の人は知らないで当たり前の用語を、ついついお客さんが知っているのを前提に話してしまったり、逆にお客さんから用途を間違っている専門用語で相談されて、会話が噛み合わなかったりということが時々あります。

これには、プロ側がついつい説明なしに専門用語を使ってしまうというあるあるネタと、お客さん側がネットで知ったりどこかで聞いた話をよく分からないままに使ってしまうというあるあるネタが、複雑に絡み合った事情があります。

そこで、この度、着物のお手入れにまつわる専門用語や加工内容などを、出来る限り誰にでも分かるように、着物お手入れのプロであるボクが、解説していこうではないか、という試みです。

(いつまで続くかはお約束出来ません。なぜなら、ボクがものすごく飽き性だからです(断言))

ちなみに、Twitterでは着物お手入れに関する質問や疑問を募集しています。

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というわけで、記念すべき第一回は、題して、

「着物の丸洗いと洗い張りって、何が違うの?」

というお話をさせていただきます。

丸洗いって、なに?

一度でも着物のお手入れの相談をしたことがある方なら、「丸洗い」という言葉を聞いたことがあるかと思います。

その他にも、生洗い、京洗い、○○洗いという呼称が使われることもあるようですが、基本的には全て同じです。

(生洗いは丸洗いと違う方法を指す場合もあるようですが、ややこしいのでここでは触れません)

簡潔に申せば、丸洗いとは、着物の縫製(仕立て)を解かずに石油系溶剤で洗うことです。

原理の話をすれば、洋服を洗うドライクリーニングと同じ原理です。

ですので、着物クリーニングと丸洗いは同じです。

丸洗いの最大の特徴は、着物を解かずに「洗う」ということが出来るという点ですが、絹の着物を解かずに洗えるということは、生地の縮みや染色に対する影響を極力与えずに洗う必要がありますので、その洗浄力は水に比べてそれほど高くはありません。

丸洗いの効果としては、洗うことによって、着物全体の薄汚れやある程度の油染みなどを取る効果があります。

ただし、先に述べたように、水洗いと比べると洗浄力は高くないので、シミや汚れがある着物は、染み抜きと併用する形での丸洗いを行うのが通常の作業となります。

シミや汚れがある着物は、全体的に薄汚れが蓄積している場合が多く、染み抜きと併用することでより綺麗になります。

着物の衿や袖口は、一度着ただけでも皮脂、お化粧、汗の汚れが付きますが、丸洗いだけでは落ちきらないので、その辺りは染み抜きで汚れを落としてくれるお店で丸洗いを頼む方が良いと思います。

(ちなみに、当店ではクリーニングの料金に衿と袖口の変色していない汚れの染み抜きは含まれております)

洗い張りって、なに?

丸洗いは着物を解かずにクリーニングすることだということはお話させていただきました。

では、「洗い張り」とはなにか?

当店にお着物のお手入れをご相談される方で、丸洗いと洗い張りを混同していらっしゃる方がたまにおられますが、これ、間違うとちょっと大変なことになりますので、よく聞いてくださいね。

洗い張りというのは、着物の縫製(仕立て)を解いて反物(長く繋がった状態の生地)にして、水と洗剤を使って生地を洗うことです。

なので、仕立てを解くということは、また着るためには当然お仕立て直しが必要になるため、単にお手入れをしたいだけだったのに、洗い張りという言葉を使って依頼してそれをお店が言葉通りに受け取った場合、着物が仕立てる前の生地の状態に戻って返ってくることになります。

ですので、我々のような着物お手入れのプロでも、洗い張りはお仕立て直しが必要になるため、そうしなければ着物の状態が良くならない場合に行う加工という位置づけになっています。

ただ、やはり解いた生地を水と洗剤を使って生地を傷めない硬さのブラシでゴシゴシ洗うので、その洗浄力は丸洗いに比ぶべくもないですし、水を使って洗うので、あらゆる臭いを落とす効果はかなり優れていると言えます。カビを落とすのにも効果的です。

ただし、よく勘違いされている方がおられますが、洗い張りを行っても変色したシミは落ちません。

シミが汚れ+変色だった場合、洗い張りで汚れが落ちてシミが薄くなる場合は大いにありますが、変色したシミ自体は残りますので、染み抜きを併用しないと変色シミは落ちません。

これはどのような加工においても共通しています。

変色したシミは、染み抜きを行わないと、直せません。

というわけで、染み抜き屋が教える着物お手入れの話の第一回は、丸洗いと洗い張りの違いについてお話させていただきました。

果たして、第二回はあるのか?

それは、読んでくださった方の反響があるかどうかにかかっているかと思います(笑)