職人というのは、基本的には自分の仕事に関わる物はオールマイティーにこなせる能力を求められます。
とはいえ、得手とする分野があれば不得手な分野があるのは当たり前ですね。
例えば、ボクの職種である染色補正であれば、ボクのように古いシミや変色したシミの染み抜きを得意とするタイプの人であったり、新しい着物を作る際の染め加工のトラブル(染め難とか呼びます)を得意とするタイプの人もいます。
全ての分野が得意と出来れば良いのですが、人間はなかなかそのようには生まれてきていないようです。(ただし、プロであれば、全ての分野で顧客に満足していただけるレベルの技術を持っているのは当然だと思います)
だって
にんげんだもの
まろを
ベタな前置きはさておき、得手不得手とは別に、出来ればあまりやりたくない仕事という分野もあります。
多分、同業者の方も同意してくださるのではないかと思うのですが、染色補正を生業とするボクが正直しんどいな、と思うその仕事とは・・・
それは、紋消しと呼ばれる加工です。
着物には、家紋を入れる場合があります。
留め袖や喪服は必ず入れますし、色無地なんかにも背中に一つ紋を入れたりします。
家紋というのは、その人(家)それぞれによって違うので、例えば、誰かが誂えた着物を譲られた時などには、自分の家紋と違う紋が入っていたり、また、所有者が代わらなくても、紋をなくしてもっと気軽に着られる着物にしたいということがあるようです。(家紋そのものについてはあまり詳しくないので、質問は受け付けませんw)
そんなこんなで、着物の紋を消して欲しいという依頼は時々あります。
とはいえ、ぶっちゃけてしまうと、あったものを無かったかのようにするのは非常に難しい仕事ですし、手間も時間もとてもかかりますので、出来ればあまりやりたくない避けて通りたい道です(笑)
手順としては、上絵という紋の模様を消してから、紋の形を作っている色が抜けている部分に色を挿して、周囲と同じ色になるようにしていきます。
これが言うは易く行うは難しでして、まず、上絵が墨などで書いてあるので非常に落ちにくいですし、他のシミなどのボヤッとした色抜けではなく、紋のようなハッキリと境界線があるような色の抜け方をしていると、色を挿すのに手間も時間も神経も使います。
努力の甲斐があって、見た目にはあまり分からないぐらいには直すことが出来ました。
ただ、しつこいようですが、このお仕事は積極的には受け付けていません(笑)