ボクの仕事は、着物を染み抜きやクリーニングをして、また着られるようにすることです(今は洋服も染み抜きしていますが、元々は着物が専門です)
職種としては、「染色補正業」という名前です。国家資格も持っています。
法人様や一般消費者様から、年間を通じてたくさんのお着物をお預かりして、それぞれに必要な染み抜きやお手入れをします。
この仕事自体は、着物という「物」に対して成したことへの対価をいただいておりまして、ボクがしていることはシミなどで着られなくなった着物をまた着られるようにすることですので、ある意味、ボクは着物を救っているわけです。
でも、この仕事を始めた頃はそんな事は思った事もなかったんですが、業者さんからの仕事を黙々とこなすだけではなく、一般消費者の方からのご依頼を直接受けるようになってからは、ボクがしていることはそれだけじゃないってことに気付きました。
着物を救うのが仕事。でも、救いたいのはそれだけじゃない
最近、新しい自社サイトを作ったんですが、そのサイトにアクセスすると、最初にボクが一番言いたいことの序文が書いてあります。
「救いたいのは、着物ではありません。」と書いてあります。
着物の染み抜きやクリーニングが仕事で、サイトもその仕事を承るために作ったのに、何言ってんだこいつ?ってな感じですよね(笑)
そして、ページをさらにスクロールすると、今度はこのような文言が書いてあります。
「あなたの大切なお着物への愛と想いを救いたい、といつも願っているお店です。」
うーむ。なんて甘い囁き(笑)
まぁ、ちょっと照れ隠しに茶化しちゃいましたが、この想いは本当の気持ちです。
染み抜きを依頼する方は、「物」ではなく「想い」を救って欲しいのだ
姪が来年成人式なんですが、それに伴い母親(ボクの姉)が成人式で着た振袖を着て式に出ようかという方向で話が進んでおりまして、タンスの奥からその振袖を何十年ぶりかで引っ張り出してきたら、比較的状態は良いものの、やはりシミや変色などがありました。
ボクはその道のプロですので、自身の手や職先さんの力を借りてその振袖をまた着られるように出来るのは当たり前に知っていることなんですが、普通の方の多くは、染み抜きやお手入れでシミや黄ばみのある着物がまた着られる状態になるということ自体を知らないんですよね。
だから、お着物が直って綺麗になると、着物のお手入れを承ったボクへのお礼や感謝の気持ちを込めたお電話や直筆のお手紙やメールなどをいただくことがとても多いです。
そんな事が続いたある日、ボクは気付いたんですよ。
「そうか。ボクは染み抜き屋だから着物を綺麗にして着られるようにするのは当たり前のことなんだけど、依頼された方にとっては、着物への様々な想いや思い出なんかが救われたような気持ちになるんだな」って。
だから、先日の振袖のお店が夜逃げした事件、高いお金を払ったのに着物も受け取れず着付けも出来なかった方が気の毒なのは当たり前なんですが、お母様やお祖母様の振袖を着付けのために店に預けて行方不明になってしまった方の気持ちを考えると、とても心が痛みます。
ボクが偉そうに言うのも変ですが、業界の方でお客様の着物を預かった際に、単なる物として雑に扱う方も結構いますが、その着物は、貴方にとってはただの加工品であっても、依頼された方にとってはかけがえない想いがこもっている着物であるということを、常に胸に留めておいて欲しいなぁ~と切に願います。