お電話やメールなどで必ずと言っていいほどいただくご質問に、「古い(何十年も前の)シミ・変色したシミでも直りますか?」というのがあります。
ボクは染み抜き屋なのでもちろん知っていますが、一般の方は変色してしまったシミが落ちるのかどうかをご存じない方のほうが多いと思いますので、当然の疑問だと思います。
まず、シミは大きく分けて二つに分かれます。一つは、単に何かが付いてシミになっているだけの状態。この状態のシミは、ほとんどの場合、生地を傷めたりすることなく落とせます。(ただし、インクや墨汁などが大量に付着した場合、落ちきらないことがあります。)
もう一つは、シミが付いてから長い時間が経ち、生地や染色した色を変色させてしまっている状態です。この状態のシミは、前述の付いただけのシミよりも難易度が格段に上がります。
なぜ付いただけのシミよりも難易度が上がるのか? それは、シミを抜く際に生地の地の色も抜けてしまったり、シミによって変色していると、的確な色を足して元に戻す作業が必要となるからです。 これを、染色補正といいます。
また、難易度が高いことからでしょうか?他店さんでご相談された際に、古いシミや変色したシミは「直らない」と断られてしまうことが非常に多いようです。(血液を含むタンパク質のシミは 変色してしなくても固化していて落とせない場合もあります。)
古い・変色したシミは直らないのか?
では、古かったり変色してしまったシミは直らないのでしょうか?
いえ、決してそんなことはありません! 確かに、変色したシミを落とすことは簡単なことではありません。
ですが、シミによって生地が弱っているようなことがなければ、お着物の色合いなどにもよりますが、現状よりも改善出来る場合がほとんどなのです。
ではなぜ、多くのお店では直らないと言われて断られてしまうのでしょうか?
それは、「古いシミや変色したシミの染み抜き・染色補正は、非常に手間がかかって割に合わないので、断った方が楽だから」です。
経営的に考えれば、手間のかからない仕事を数多く仕上げた方が、売上を簡単に上げることが出来ると思います。
私も経営者ですから、その考え自体を非難するつもりはありません。
ですが、私のような職人の仕事とは、「ご依頼者のお着物を、自己の技術と信念の全てをもって手間を惜しまず限りなく綺麗にさせていただき、ご満足いただいて報酬を頂戴する」ということが本質なのです。
ですから、私は、効率が良いとはいえない難しいお品物も、出来る限りお断りせずに承っております。
もちろん、私も魔法使いではありませんので、ご依頼に対してどうしてもご期待に添えない場合もございます。ですが、切実な想いでご相談された方を門前払いするようなことは決してしないことを信念としています。
もう一度申します。「古いシミ・変色したシミは、ほとんどの場合は現状よりも改善出来るのです!」
大切なお着物のシミで困っておられるときは、まずはご相談くださいませ。 ご納得されるまで、染色補正師がお話させていただきます。
【変色したシミの染み抜きと染色補正の事例】
絞りの着物に古く変色したシミがあります。
染み抜きすると、このように地の色も抜けてしまいました。
色修正(染色補正)にて、だいたい分からない状態に戻すことが出来ました。