悉皆(しっかい)という言葉をご存知ですか?
悉く(ことごとく)皆(みな)という意味の文字を組み合わせた言葉で、意訳すると、「あらゆること全て」という感じの意味になります。
着物お手入れの業界で悉皆屋さんというと、諸説はあるのですが、「着物のメンテナンスやリフォームなどのあらゆることを引き受ける職業」と言えると思います。
(着物を誂える職業の方を悉皆屋さんと呼ぶこともありますが、今回はお手入れに関わる悉皆屋さんの話です。)
この悉皆屋さん、昔(何年前くらいかは分かりませんが)は、全国のある程度大きな街であればどこでも一軒や二軒ぐらいはあったそうです。
ですが、今やかなり大きな街でもなかなか悉皆屋さんを見つけられないという状況にまで減ってしまいました。
原因としては、店主の高齢化や後継者問題、または市場規模の縮小による経営維持の困難さなどだろうと推測されます。
着物お手入れに関するあらゆること全て、というと、悉皆屋さんはどこまで引き受けてくれるのだろうか?という疑問が湧いてきますよね?
そのお店の方針なんかにもよりますので一概には言えないのですが、悉皆屋さんは本当にあらゆること全てを引き受けています。
染み抜き、汗抜き、洗い張り、丸洗い、染め替え、寸法直し、柄足し、金彩加工、仕立て直し・・・などなど、着物のメンテナンスやリフォームに関することは全て一手に承ってくれる、とっても頼りになるお店なんです。
その他、白生地から色や柄をお客さんと相談しながら着物を誂える注文を受けてくれるお店もあります。
ボクは染み抜き屋ですが、悉皆屋さんと呼ばれることもあります。
でも、これは厳密に言えば間違いです。
本来の悉皆屋さんというのは職人さんではなく、着物のメンテナンスやリフォームのことにおいて商品の状態の診断とお客さんの希望を聞いて総合的に判断して、提携している職先さんに的確な作業の指示を出す仕事なんです。
なので、他の職業であればプロデューサーとか監督みたいな感じですかね。
そんな感じで、昔は着物を買った・着た後のことは街にある悉皆屋さんに行けば的確なアドバイスを受けられたんですが、今やその悉皆屋さんが激減してしまって、相談する先がないという話は常にお聞きする話です。
ボクは、現代に合った悉皆屋さんになりたい
ボクは悉皆屋さんではないと言いましたが、実際のところ通常の業務としての染み抜き以外にも、寸法直しや染み抜きで直せない物の染め替えなどなど、あらゆることを承って信頼出来る職先さんに発注する業務をこなしています。
これは、ボク自身が悉皆をやります、と宣伝とか告知したわけではなく、お客様からのご相談やご要望にお応えしているうちにこうなったということです。
それだけ、本来の悉皆屋さんが減ってしまった現代では、着物を楽しまれている方の多くが困っておられるということなんだと思います。
元々というか今も現役の染み抜き職人ですので、本来の悉皆屋と同じようには出来ないのは自分でも分かっています。
ですが、着物のあらゆること全てで困っている方がいる以上、出来る範囲だけでもご希望を叶えてあげたいと思うんです。
悉皆屋と名乗りはしませんが、ボクは現代の悉皆屋さんになりたいと思っています。
【染み抜き・染色補正・修復事例】
着物の悉皆屋さんになりたいと言いましたが、染み抜き屋としてはこんなことも出来ますよ、という事例です。
エルメスのバッグ・ガーデンパーティーの四隅が使用により染色が剥げて革の表面も少し削れてしまっています。
革表面の削れは元に戻せませんので、元の革の表面のシボ(凹凸)がない状態での仕上がりになることをお伝えして、色を元の色に革専用の染料で染色補正にて戻す作業を行いました。
さすがはエルメス、なかなかに複雑な色合いで色合せにちょっと苦労しましたが、綺麗に仕上がったと思います。